蒼雪ブレンド -2ページ目

「あたし、思うんだけどさ。達磨って、一回転んだら転がり続けるような気がするのよね」

「どーでもいい疑問ですね」

「人が止めて初めてピタリと止まるのよ。だから、達磨さんが転んだも他人が……」

「先輩。そろそろ帰りましょう」

「はーい」

報道

「報道部なんだから、事件の一つや二つ解決しないといけないわよね」

「普通の報道部はそんな事しませんよ」

「それで、事件って何かないかしら」

「だから、報道部はそんな事しませんって」

「教頭の愛人疑惑とか」

「最早単なるプライバシーの侵害ですよ、それ」

「生徒の知る権利を……」

「役所じゃないんですから」

迷走バレンタイン(1)

「なあ、今年のバレンタインはパリの有名店から取り寄せた物にしてくれよ」

などと、うちのお兄ちゃんが戯言を言うような季節がやってきた。もうすぐ二月である。

近所のスーパーやら少し離れたケーキ屋やら手作りやら毎年趣向を変えてみてはいるが、それを渡す相手が毎回お父さんとお兄ちゃんだけという私は、枯れた青春街道をフルスロットルでばく進中だった。

近所にかっこいい幼馴染でもいれば話は変わっていたとは思うけど、近くに住んでいるのは名前を覚えていないような地味な男子だけ。一緒に遊んだ事さえ一度もない。

初恋の相手や憧れの先輩への熱も決まってこの時期には醒めており、あの人はどう思うかしらドキドキといった乙女チックな思考を私が持つことはなかった。きっとバレンティヌスの呪いだ。そうに決まっている。義理チョコさえあげる相手がいないなんて。

ホワイトデーってなんだっけ。あははー。

「那美はいつも寂しいバレンタインデーを送っていたのね」

「…………」

遠慮のない麗子ちゃんの言葉に、世界が真っ暗になった気がした。ビターチョコだらけの世界だったらこんな感じなのかとどうでもいい感想を抱いてしまう。

さて、そういう麗子ちゃんはどうなのだろう。

「わたくしも年頃の女の子ですから、そのような相手もおりますわ」

なるほどー、つまり同い年で相手もいない私はそれほど惨めな存在なわけですね。

麗子ちゃんの言葉は心どころか、心臓から動脈を通して全身へと隅々まで行き渡り、頭ガンガン、手足ブルブル、お腹ギューギューっといった感じで私を苦しめる。これはきっと草津の湯でも治せないだろう。

「でも今は那美もお相手はいるのでしょう?」

「……い、いるよ」

遠い未来ならきっと。

「あら。では寂しさともお別れね」

「そうだね……」

麗子ちゃんの悪意のない(たぶん)笑顔が心に痛い。バファリンの半分が優しさでできているというのなら、私もあれを飲めば心に優しさという癒しを補充できるのだろうか。

その前に、渡す相手をまず見つけないと……。できたら義理じゃない形で。

突然美形の転校生が来たりして、でもって何かお告げを受けた感じで担任が席替えなんかしたりして隣同士という縁を手にし、君の事が気になるなんて過程も無視した急展開が起きたりしないものだろうか。思ってて、そんな事に頼ろうとしている私は相当やばいと悟ってしまう聡明な脳がこんちくしょうだ。

はぁ……。でも本当に何とかしないと。お兄ちゃんにでも上級生の人を紹介してもらおっかな……。

陽だまり姫

お嬢様と言えば、みんながみんな麗子ちゃんのような性格をしているわけじゃない。

というかむしろ、普通に考えても麗子ちゃんが変わってるだけかもしれない。

でも私は思うのだ。

お金持ちのお嬢様は、けっこう変わってる人が多いのかもしれないと。

「あのー」

掃除の時間。箒を片手に、中庭で困惑する私。

目の前には陽光を浴びながら、木にもたれかかってクゥクゥと眠る着物の女性。

この人が一応先生だったりするのだから、ほんと困ったものである。

「御堂先生。起きて下さい」

「うやん」

揺すって起こそうとするが、そんな可愛らしい声をあげながら手を払ってくる。

御堂財閥令嬢、理事長が親の知り合いという確実に親のコネだけでうちの私立中の先生をやっているこの方は、こうして中庭で寝ていようと他の教師に注意される事はなかった。権力って怖い。

ちなみに美術担当。なぜかいつも補佐する人がいる。世の中って不思議だ。

美人で二十四とまだ若い。おっとりした雰囲気も相まって、男子に大人気。他の女の先生はいい迷惑だとも思う。

「まだ日は明るいー」

「だからこそ、寝ないで下さい」

夜行性なんだったら、定時制の学校に赴任して欲しい。

「五万円あげるから~」

「仮にも教師なんですから、金で解決しようとしないで下さい」

しかも金額がけっこうリアル。たぶん冗談ではないからなんだろうけど。

そしてこの先生に気に入られ、起こす係りに公然と選ばれている私はお嬢様に好かれやすい体質とか巷で噂されているらしい。実は麗子ちゃんとこの先生以外にもまだいる。私はこの学校におけるお嬢様としてのステータスの一部に組み込まれているんだろうか。

「那美ちゃんがわたしの養子になってくれるんだったら、起きるー」

「無茶な事を言わないで下さい」

「パパは良いって言ったもん」

御堂家は娘に異常に甘い。まるで金平糖にシロップを塗りたくったかのようだ。

「私が嫌だって言ってるんです」

「いじわる……」

先生は子供のように拗ね顔を見せると、ようやくその重い腰をあげてくれた。

地べたで寝ていたというのに、まるで汚れた所がない。きっと黒子でもいるんだろう。

「ふわぁ~。また後で美術部でね」

大あくびをしながら去っていく先生。クラス担任をさせなかった学校は賢明だ。

美術部の顧問。だけど、着物を着てるせいでよく茶道部と間違われる。

麗子ちゃんに負けず劣らずの、変わった人だった。

詐欺

「見てよ、これ。すごいでしょ?」

「何かのカードみたいですけど、何ですか、それ」

「あなたの夢を叶えましょうカードよ」

「……先輩。どこの詐欺に引っかかったんです?」

「郵送で送られてきたの」

「どこからですか?」

「地球防衛隊から」

「絶対詐欺です」

本音

「何だかんだ言ったって、みんな外見を気にしてるわよね」

「先輩はお綺麗ですよ」

「あら、ありがとう。雄太もかっこいいわよ」

「それはどうも」

「……ところで雄太。どうして黒板に『中の下』って書いてるの?」

「先輩こそ。どうして『普通中の普通』って書いてるんです?」

「あはは。どっちが本音なんでしょうねー?」

「さあ。それは僕にもわかりませんが、『豚野郎』と書くのはやめて下さい」

「そっちこそ、『THE 異次元』って書くのやめなさいよ!」

きっかけは……

長い髪をばっさり切る時って、何らかのきっかけがあるのだと思う。

私はあまり髪を伸ばした事がないから実感した事はないけど、たぶんそのはず。

だから麗子ちゃんが綺麗なストレートの長い髪をばっさり切ってショートにしてきた時は、やっぱり何かきっかけがあると思ったんだ。

「キャンドルの火が髪に燃え移ってしまいまして」

さすが麗子ちゃん。きっかけも普通じゃない。

「どうしてそんな事に?」

「我が家の執事が黒魔術に凝っておりまして」

「即行首にした方がいいよ、その人」

それで雇い主の髪を燃やしたんだから、少しも同情の余地はない。

その変な趣味だけでも十分だとは思うけど……。

「いえ、わたしの方から頼み事をしましたから」

「……頼み事?」

黒魔術に凝ってる人に頼み事? 

それって、かなりろくでもない内容なんじゃ……。

「ところで那美。身の回りで何か変わった事は?」

「変わった事? 強いて言えば、うちのお兄ちゃんが原因不明の高熱を……って!」

「それはお気の毒ですわね」

「ちょ、麗子ちゃんその怪しい笑みは何!?」

末吉

初詣に家族で行っておみくじを引いてみると、末吉だったりした。

内容は健康には要注意で、恋愛は我慢が肝心で、学業はまぁまぁ。そしてなぜか金運だけは良くなると書いてあったりする。

占いはけっこう信じるタイプなんだけど、その結果には首を傾げるばかり。

ところがその金運の部分だけは、後日あっさりと判明していた。

「あけましておめでとうございます、那美」

冬休みも開け、再会した麗子ちゃんは、やっぱり前と変わらず変なオーラを漂わせている。

失礼だとは思うけど、事実なんだから仕方ない。だって、変なものは変なんだもん。

「ところで、これを弟から預かってきたのですけど」

「……ロイス君から?」

麗子ちゃんが差し出してきたのは、何やらずっしりと重たい封筒。

ドラマとかじゃ、この中からお札の束なんかが出てきたりするんだけど、まさかね……って、

「まんま札束じゃん!」

開けてびっくり、見てびっくり。たぶん百万以上あるよ、これ。

な、な、な……。どういう事か、さっぱり理解できないんですけど。

「ロイス君、何を考えてるんだろ」

「そういえば、那美もハーレムに加えたいって以前言っていたような……」

「まだそんな野望もってたの!?」

麗子ちゃん以上にやばいよ、あの子。

というか、他人事だと思ってたのに、なぜに私?

確かに将来有望なロイス君ではあるけど、小学生の男の子に買われようとしてる私って……。

全然喜べない。末吉って意味も納得かも、これなら……。

すみませーん(><)

新年早々、更新をさぼりまくってます。すみません。

実は体調がちょっと悪いみたいで、あまり作品を書く気力が湧いてきません。

気力で書いてる性分の私なので、この状態はきついです……。

おみくじの結果が凶だったからとか、そんな理由ではありませんから。ただ、体調を崩したのは、その影響かもしれません(←ただの不摂生)

明日か明後日には、なんとか更新したいなと『思ってます』。思ってるだけでは実現できない、この現実の厳しさ。

第三章の改稿も遅々として進まず、投げ出しそうで怖いです(笑)

長いよー。何で長いの? 私が書いたからなんですけど、自分への不満いっぱいです。

そろそろ続きも更新した方がいいでしょうし、うむぅ……。

短編も書きたいなぁ……どうしよ。

とまあ、いろんな意味でフラフラと。50万ヒットも近づいてるのに、この調子でいいんだろうか、私……。

電波

「帰省して、久しぶりにうちの祖父さんと会ったんだけどさ」

「あのファンキーな格好したお祖父さんですか……」

「なんか地デジ恐怖症になってて、体調崩してたわ」

「なぜ地デジで体調が悪くなるんです!?」

「わしはアナログ大使だからとかなんとか」

「さすがに先輩のお祖父さんって感じですね……」

「どういう意味よ」

「電波をキャッチしてるという意味です」