陽だまり姫 | 蒼雪ブレンド

陽だまり姫

お嬢様と言えば、みんながみんな麗子ちゃんのような性格をしているわけじゃない。

というかむしろ、普通に考えても麗子ちゃんが変わってるだけかもしれない。

でも私は思うのだ。

お金持ちのお嬢様は、けっこう変わってる人が多いのかもしれないと。

「あのー」

掃除の時間。箒を片手に、中庭で困惑する私。

目の前には陽光を浴びながら、木にもたれかかってクゥクゥと眠る着物の女性。

この人が一応先生だったりするのだから、ほんと困ったものである。

「御堂先生。起きて下さい」

「うやん」

揺すって起こそうとするが、そんな可愛らしい声をあげながら手を払ってくる。

御堂財閥令嬢、理事長が親の知り合いという確実に親のコネだけでうちの私立中の先生をやっているこの方は、こうして中庭で寝ていようと他の教師に注意される事はなかった。権力って怖い。

ちなみに美術担当。なぜかいつも補佐する人がいる。世の中って不思議だ。

美人で二十四とまだ若い。おっとりした雰囲気も相まって、男子に大人気。他の女の先生はいい迷惑だとも思う。

「まだ日は明るいー」

「だからこそ、寝ないで下さい」

夜行性なんだったら、定時制の学校に赴任して欲しい。

「五万円あげるから~」

「仮にも教師なんですから、金で解決しようとしないで下さい」

しかも金額がけっこうリアル。たぶん冗談ではないからなんだろうけど。

そしてこの先生に気に入られ、起こす係りに公然と選ばれている私はお嬢様に好かれやすい体質とか巷で噂されているらしい。実は麗子ちゃんとこの先生以外にもまだいる。私はこの学校におけるお嬢様としてのステータスの一部に組み込まれているんだろうか。

「那美ちゃんがわたしの養子になってくれるんだったら、起きるー」

「無茶な事を言わないで下さい」

「パパは良いって言ったもん」

御堂家は娘に異常に甘い。まるで金平糖にシロップを塗りたくったかのようだ。

「私が嫌だって言ってるんです」

「いじわる……」

先生は子供のように拗ね顔を見せると、ようやくその重い腰をあげてくれた。

地べたで寝ていたというのに、まるで汚れた所がない。きっと黒子でもいるんだろう。

「ふわぁ~。また後で美術部でね」

大あくびをしながら去っていく先生。クラス担任をさせなかった学校は賢明だ。

美術部の顧問。だけど、着物を着てるせいでよく茶道部と間違われる。

麗子ちゃんに負けず劣らずの、変わった人だった。