迷走バレンタイン(3)
麗子ちゃんの家で働いている執事の息子さん。
その人について何か知ってるかと麗子ちゃんに尋ねてみたところ、返ってきた返答はこれだった。
「あー……。あのボディビルダーを目指している筋肉ムキムキの方ですね」
一瞬で興味が失せる。
「それがどうかしたんですの?」
「な、何でもないよ。あはは……」
そっち系の人は苦手なのだ。遠くに見ている分には良いけど、近くに来られると……。
格闘番組もダメだし、それに、私の好みはスラッとした美男子系。方向性が違う。
「もしかして、バレンタインデー関係?」
ああ、なぜそんな要らない所で妙な勘の鋭さを披露してくれるのだろう。
「違う違う。全然そういうのじゃないから!」
私は手をばたばたさせながら、慌てて否定した。
ところが、麗子ちゃんはそれを照れ隠しと誤解したのか、
「ふふっ。今度紹介して差し上げますわ」
なんて余計な事を。
「いや、ほんと違うから! 紹介とかいらないよ」
「あらそう? でも一歩を踏み出す勇気を持たないと、いつまでも今のままですわよ、那美」
「違うから。踏み出す必要のない一歩だから!」
バレンタインデーまでの道のりを迷走中。行きたい方向性に行かないのはどうしてか。
はあ……。今年もダメかも。