麗子ちゃんとお兄ちゃん その5
お兄ちゃんが麗子ちゃんに拉致され、警察に連絡しようかどうか迷っていると、一通のメールが。
『警察に知らせたら、命の保証はできませんわ』
うわー、本物の誘拐犯みたいだよ、麗子ちゃん。
洒落になってない。マジで。
しかし通報すれば、余計にややこしい事になるのも目に見えている。
「……よしっ。放っておこう」
頑張れ、お兄ちゃん。私にはそう祈るだけしかできない。うん、たぶん。
しばらくして、お母さんが家に帰ってきた。
「あら? 渚はどこかに出かけたの?」
「友達のところ」
正確には、『私の』友達のところ。
「夕飯はいるって?」
「いらないみたいだよ。いるんだったら、電話があると思う」
あの様子じゃ、すぐに解放してもらえる事もないだろう。
夕飯は麗子ちゃんがきっと豪勢な食事を出してくれるさ。良かったね、お兄ちゃん!
「今日は渚の好きなすき焼きだったのに。タイミングの悪い子ねえ」
「そうだねー」
頭の片隅に抗議しているお兄ちゃんの姿が浮かぶが、私はそれに気づかぬ振りして、適当に相槌を打っていた。