麗子ちゃんとお兄ちゃん その4 | 蒼雪ブレンド

麗子ちゃんとお兄ちゃん その4

「汚い所だけど、どうぞ上がって」

「まあ。本当に小汚い」

……我慢我慢。我慢が肝心だ、私。

「お、那美。もう来たのか」

そう声をかけてきた主は、ソファーに寝そべりながら、借りてきたDVDを観ていた。

「ちょっと。あんまり見っともない格好はやめてよ!」

普段のように猫を被れとまでは言わないけど、だらしない格好もやめて欲しい。

しかも、何で内容が韓国ドラマなのよ……。

「うっせえなぁ。家にいる時ぐらい、気を休ませてくれよ」

「勝手に外で猫被って、気疲れ起こしてるだけでしょ?」

あー。よりにもよって、だらけ状態のお兄ちゃんと麗子ちゃんを会わす事になるなんて……。

「あの、麗子ちゃん。がっかりしたかもしれないけど、あれがうちのお兄ちゃんだから」

視線を向けると、麗子ちゃんは難しい顔をしながらじっとお兄ちゃんを見つめていた。

「麗子ちゃん?」

なんだろ、この反応。

まさか、一目惚れしたなんてオチなんて事はないだろうけど……。

「がっかりは余計だ。君も、こんな妹の相手は大変……うん? どうかしたのか?」

お兄ちゃんの方もわからないらしく、首を傾げている。

この反応からして、二人が知り合いって事もないんだろう。

「似てますわ……」

「似てるって、誰に?」

「前に務めていた若い執事の一人にです。まるで生き写しのよう」

……生き写しって事は、亡くなったんだろうか。

懐かしそうでいて、それでいて悲しそうな表情を見せる麗子ちゃんが、なんだか少し切なかった。

「那美。どういうわけだ?」

事情がさっぱりわからない様子のお兄ちゃんが、私に質問してくる。

「えっと、つまり。麗子ちゃんの家で働いていた人とお兄ちゃんが似ていて、懐かしさを感じて……」

そう、懐かしさを感じて、

「那美。ちょっとその人、借りますから」

「へ?」

麗子ちゃんが携帯で誰かに連絡を取ると、瞬く間に家に黒服スーツの集団が現れ、お兄ちゃんを無理やり抱えると風のように去っていった。その間に、麗子ちゃんもはたと姿を消してしまう。

「えっと……」

展開に、思考が追いつかない。

懐かしさを感じて、それでみんな消えちゃって……。

まあつまり、要はこういう事だ。

「お兄ちゃんが拉致された!?」