麗子ちゃんとお兄ちゃん その3 | 蒼雪ブレンド

麗子ちゃんとお兄ちゃん その3

「…………」

空いた口が塞がらなかった。

待ち合わせの場所に誰もいなかった。ただそれだけなら、こんな反応もしないと思う。

だけど、待ち合わせの相手が空からやって来れば、普通はこんな反応をするとも思うのだ。

「お待たせ、那美」

「な、なんでヘリで……?」

なぜ河川敷が待ち合わせ場所だったのかだけは理解できるけど。

どこぞのIT社長でもあるまいし、自家用ヘリで来るかな、普通。

お嬢様とか、そういう問題でもないでしょ、これ。

「お父様が仕事場に行くついでに送って下さいましたの」

「へえー、そうなんだ」

なるほど。納得……できません。

まあそれはもう、麗子ちゃんだからという事で片付けるとして、

「じゃあ、あのヘリには麗子ちゃんのお父さんが?」

はたしてどんな人物なのか、気にならないと言えば嘘になる。

しかし、

「お父様はここに来るまでに降りられましたが」

「そんな近場なのにヘリ使ってるの!?」

変人だ。金持ちというより、変人だ。

もういいや。理解しようとするだけ無駄なんだろう。

「それで、那美の家はどの辺りですの?」

「川の向こうにある、あの茶色いマンションだけど」

「まあ。あれが家だなんて、那美も裕福でしたのね」

……そんなわけがない。

揚げ足を取ってるつもりはないんだろうけどさ。

「あのマンションの一室だから。一応、賃貸じゃなくて購入してはいるけど……」

それなりの値段はするマンションらしく、買った当初はお父さんが自慢げにしてたっけ。

でも麗子ちゃんの発言を聞けば、きっとへこむだろうな……。

「お金に困っているようなら、多少は援助しますけど」

「ランクが下がりすぎ!」

あれで貧乏生活と言われたら、たまったものじゃない。

そこらの安アパートに住んでる人は、極貧生活ですか。

「わたくし、あれより高いビルを所持していますのよ?」

「はいはい。もうわかったから、さっさと家に行こ」

まともに受け取ると疲れるだけなので、軽く流すに限る。

この調子じゃ、お兄ちゃんとのまともな会話も期待できないだろうな……。