麗子ちゃんとお兄ちゃん その1
衝撃的な事を耳にした。
「え? 楠木さんって、一人っ子じゃなかったの?」
とは、小学校の頃から知り合いだった女の子である。
小学校の時からずっと一年上に同じ楠木という苗字の人がいたというのに、この認知度の低さは何なんだろう。
「那美は一人っ子よ」
「麗子ちゃん。勝手に嘘を答えないで」
知りもしない事を平然と答えてくれる麗子ちゃん。
図々しい……とはちょっと違うかもしれないけど、とにかく迷惑である。
「あら。兄弟がいましたの?」
「いるよ。しかも、うちの学校に通ってるし。楠木渚っていう人だけど、知ってる?」
その言葉に麗子ちゃんは『はて?』といった様子で首を傾げるが、知り合いだった子の方は反応が違った。
「嘘! 渚先輩って、楠木さんのお兄さんだったの!?」
目を大きく見開き、さも意外な事実だと言わんばかりの驚きよう。
楠木なんて苗字の人は他にいないのに、なぜそこまで……。
「そこまで意外かなー……」
「だって、顔の作りが全然違うじゃない!」
……大きなお世話だ。
どーせどーせ、私は普通の顔ですよ。美形の兄に比べれば、月とすっぽんでしょうさ。
「血は繋がっていますの?」
「ちゃんと繋がってるよ!」
失礼な。
橋の下説まで持ち出されるほど否定されることじゃないのに。
「今度紹介して下さいな、那美」
「えー……。まあ、別にいいけど」
お兄ちゃんも麗子ちゃんに興味があるみたいだったし、迷惑がりはしないだろう。
ただ、なーんかヤな予感がするんだよね……。